私は今、動揺しておる。
環境が変わる、というのは、思いのほか色々と考えるようだ。みんな、設計事務所っていうものには、どんなイメージを持っているかね?
ブオナロッティ君「少人数で、一人一人が凄い忙しくて、でも和気あいあいとやってるような感じですか?」
うむ、そんな感じだ。私もそんなイメージを持っていた。そのイメージが変化したわけではないのだが、実際のところ触れてみると、やはり動揺してしまうものだ。こんな世界があるのかと…。
前川君「先生、なんでそんなことわかるんですか?」
いや、こういう仕事をしてるとだね、色々と人脈が増えていくものなのだ。設計事務所のような世界も、当然知ることになる。
アアルト君「でも、結構実入りはいいんじゃないですか?」
うむ、私もそう思っていたのだが。何というか、完全なる実力世界なのだ。そこがいいとこだと私は思っているが。「建築」自体が、実力世界だとも言える。だが、それをこうして目の当たりにすると、やはり動揺してしまうものなのだな。
前川君「先生、僕は将来、独立して設計事務所を運営していきたいと思っています。どうしたらいいですか?」
うーむ、この世界にいる人は、割と「独立」ということを考えるようだが…、私はあまり勧めないな。実力さえあれば、そこでトップになれる。起業するというのは、思いのほか自分にかかる負担が、かなり大きいものだ。「使われる」ということに抵抗があるのかもしれないが、「使われる」反面、「守られている」のである。相当の覚悟がない限り、いきなり自分がトップを目指すというのは、思い止まった方がいい。
佐野君「わては、バイタリティーもあるし、断然独立ですがな。」
うむ、止めはしない。それも一つの進み方だ。ただ、みんながそう思っているからと言って、無理にそういう方向に進む必要はない、ということを言いたいわけだ。私は、安定を好む。バイタリティーのあるものは、リスクを冒すことに積極的なわけだが、従業員が増えることで、ジレンマにさいなまれることになる。従業員の生活を、守らなければいけないからな。そういうことを、私は言いたいのだ。
前川君「先生、僕らは、一流の建築家を目指しますよ。」
うむ、よいよい。志が高いことは、一つも悪いことではない。私も志は高い方なのだが…、現実というものに対しても、十分な注意を払っている。一流になることだけが、人の幸せではない。幸せには、いろんな形があるのだ。このことを、私は今回の授業で、君たちに伝えたかった。この世界は、イケイケの人が結構いて、どんどん先に進んで行くことが、善、というようなところがあるのだが、君たちに、ひと呼吸を置くことを覚えておいてもらいたかったのだ。みんな、理解してくれたかね?
一同「はーい。」
ふむ、よいよい。君たちはまだ、10代だ。どんどん大きな夢を持つがよい。今回の授業は、10年後、20年後に、ふと思い出してくれればいい、くらいの内容だ。今は、大きな目標を持って、どんどん勉強しなさい。わかったね?
一同「うぇーい。」
さぁ、今回の授業は、これで終わりだ。次回以降は、もっと技術的なことも少しずつ入れていきたいと思っている。では、さらばさらばの、皿うどん。
一同「は?」